世界と戦う若きフリースタイルフットボーラー。唯一無二の“イブキスタイル”で未来を切り拓く

Athlete # 26
フリースタイルフットボーラー
吉田 伊吹

“クセが強い”イブキスタイルで世界を席巻!



サッカーボールと己の身体ひとつで自由に表現し、華麗な技を競い合う「フリースタイルフットボール」。現在22歳の若さで世界を席巻しているのが、フリースタイルフットボーラーの吉田伊吹だ。

自ら“クセが強い”と称する吉田のスタイルは、足を交差させた状態で数々の複雑な技を繰り広げていくもの。3分の試合時間の中で30秒ずつ交互に技を披露する1対1のバトル形式では、唯一無二の高い独創性にジャッジも唸る。フリースタイルフットボールにおいてクロスボディという分野を確立し、今では“イブキスタイル”と認知され、世界中から注目を集めている。

大好きなサッカーを辞めた自分を救ってくれたフリースタイルフットボール



世界と戦う吉田がフリースタイルフットボールを始めたのは、高校1年生の冬のこと。中学入学を機にサッカークラブに所属し、3年間“サッカー少年”として汗を流した吉田は、地元・兵庫県加古川市内の高校ではなく、神戸市にあるサッカー強豪校へ進学。サッカーに青春を捧げることを決意した。しかし、高校入学から半年あまりが過ぎた頃、早くもサッカー部を退部してしまう。

「戦略的な緻密なパスサッカーを突き詰めていた中学のサッカー部と違い、高校ではガンガン攻める攻撃的なサッカーが推進されていました。怪我をしてしまったこともありますが、高校のサッカースタイルに馴染めずにモチベーションが低下してしまって……」

高校入学の大義を失った吉田は、失意に陥る。当時を「腐っていた」と回顧するが、自己嫌悪にも苛まれたことだっただろう。ただ、落ち込んでばかりはいられない。吉田は、いつかどこかで再びサッカーを始めるため、ひとり練習を開始した。壁打ちできる環境がなく、ひたすらドリブルとリフティングを繰り返す日々。そんな中、練習に役立つ映像はないかとスマホでYouTubeを開いたとき、ある記憶が頭の片隅から呼び起こされた。

「ドリブルやリフティングの技を披露する競技があるらしいことは何となく知っていましたが、すっかり忘れていて(笑)。このときに初めて『フリースタイルフットボール』というものの存在を認識しました」

フリースタイルフットボール歴3年で世界大会ベスト16にランクイン



フリースタイルフットボールの練習に本格的に取りかかった吉田は、周囲が驚くほどの早さで上達していく。たった1か月足らずで、初心者には難しいといわれている技をいとも簡単にマスターした。生まれ持った身体の柔軟性がフリースタイルフットボールに合っていたのか、すぐに吉田は深く魅了された。と同時に、少し有頂天にもなったという。

「フリースタイルフットボールを始めて半年後、国内の大会に初出場しました。一緒に練習していた先輩たちから日頃チヤホヤされていたこともあり、自分が優勝するものだと思い込んでいましたが、初戦敗退の惨敗。『練習と本番は違うんだ』ということを痛感しました」

本番で平常心を保てなかったことを反省した吉田は、その後もいくつかの大会に果敢に挑戦し、場数を踏んでいった。そうして迎えた半年後の国内大会(2014 GO&FUNフリースタイル大会)。吉田は初優勝を果たす。フリースタイルフットボール歴1年での快挙だった。

快進撃は止まらない。2015年、G-SHOCK主催の招待制大会「G-STYLE FOOTBALL」で優勝し日本一になると、2016年、チェコで開催された世界最高峰の世界大会「Super Ball」では、2015年の初出場に続く2度目の出場にしてベスト16にランクイン。このとき、フリースタイルフットボールを始めてまだ3年。吉田は、凄まじいスピードでスターダムを駆け上がっていったのである。

大きな“壁”にぶち当たり、勝つ意味を自問。厳しい試練も成長の糧に



こうして見てみると、さも順風満帆に映るが、フリースタイルフットボールを極める道のりはそう甘くはない。今、吉田は大きな“壁”にぶち当たっている。昨年の「Super Ball」では、ベスト8の前評判がありながら、ベスト32止まりに終わった。この敗因について、吉田はこう分析している。

「次戦を見越して、力をセーブしたまま試合に臨んだものの、その割にはイージーミスを連発してしまいました。初めて国内大会に出場したときに得た教訓どおり、やはり『いかに普通でいられるか』というのが本番の勝敗を左右します。この『普通』の水準を上げて、ペース配分を考えながらでもゲームを作っていくことができれば、自ずと結果は付いてくるものだと思います」

特に大会直前には気を配り、本番と同じ床材で実際のプレー時間に合わせて練習するなど、心を落ち着かせるためのルーティン作りに余念がない。また、昨年の敗因を分析した際、吉田は大会で勝つ意味についても自問した。

「大会で良い成績を残すのはプレーヤーとしての誇りですが、ただ勝てば良いわけではないような気がしています。フリースタイルフットボールの大会には一般の観客も大勢いらっしゃっていますので、その方々に『フリースタイルフットボールってカッコ良いな』と感じていただきたい。観客の記憶に残る、そんなプレーを魅せていきたいです。そういう視点で考えると、今年のJFFC(日本一決定戦)は納得できる内容でした。ベスト16で負けちゃいましたけど」

そして、勝つ意味を見据え、雪辱を晴らすために万全を期して挑んだ今年の「Super Ball」。だが、結果は昨年と同じベスト32だった。なかなか思うようにいかず苦しむが、吉田は決して下を向かない。

「伸び悩んでいることは否定しません。でも、成長も確かに実感しています。今は、目の前の扉をノックしている時期。いつかは開くと信じています」

立ちはだかるのが“壁”ではなく“扉”なら、それは自分の力で開くことができる。負けず嫌いを自称する吉田は、厳しい試練さえも楽しんでいるように思えた。

世界一はスタート地点。フリースタイルフットボールを子どもたちの憧れのスポーツに



プレーヤーとして目指すは、世界の頂点。けれど、そこは“ゴール”ではなく、あくまで“スタート地点”だと吉田は言い切る。

「僕の夢は、フリースタイルフットボールを子どもたちにとっての憧れのスポーツにすることです。世界一になれば、発言力や影響力が増します。早く“スタート地点”に立って、フリースタイルフットボールの認知拡大にもっと貢献していきたいです」

すでに吉田は、子どもたちにフリースタイルフットボールを教えている。2年前、大学2年生のときに始めたレッスンは好評。下は幼稚園・保育園の年長から上は高校生までが通っている。レッスンでは、身体の動きを細かく分け、技のひとつひとつを丁寧に伝えることを心がけているそうだ。

「『見て覚えて』と言っても、小さな子どもたちは理解できません。身体の動きをひとつずつ教えていけば、必ず吸収してくれます」

子どもたちの上達ぶりには吉田も目を細める。フリースタイルフットボールの楽しさを知った生徒の中には、サッカーを辞めて“完全移行”するケースもあるそうだ。そのたび、吉田は責任を感じるという。

「僕は幸い、学業と両立しつつプロのフリースタイルフットボーラーとして生計を立てることができていますが、そういうプレーヤーは残念ながら多くはありません。子どもたちが本気でプロを目指せる環境を整えてあげることが、僕たち世代の使命でもあると思っています」

吉田は、フリースタイルフットボールに出会って人生が変わったそうだ。内向的だった性格は社交的になり、ビジョンから逆算して目標を実現していく力も身に付いた。高校卒業後、就職するつもりだったところ、まだまだフリースタイルフットボールに向き合いたい一心で両親を説得し大学に入学。周りの学生が就職活動を始める3年生の頃にはフリースタイルフットボーラーとして独り立ちすることを掲げて大学生活を過ごし、それを見事に達成した。両親に対する、吉田なりのけじめでもあった。

来年2019年、吉田は大学を卒業する。今後、吉田にしかできない“イブキスタイル”で、描いた未来に向かってどんな活躍を見せてくれるのか、ますます目が離せなくなりそうだ。

文=権藤将輝

フリースタイルフットボール/Freestyle_football

アスリート名

吉田伊吹

競技名:フリースタイルフットボール

生年月日:1996年7月4日

出身地:兵庫県

身長・体重:173cm/61kg

血液型:O型

趣味:読書、ぶらり旅

競技名:フリースタイルフットボール

生年月日:1996年7月4日

出身地:兵庫県

身長・体重:173cm/61kg

血液型:O型

趣味:読書、ぶらり旅

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