Athlete # 19
カバディ
東京レイズ
出身校、経験を問わない「東京レイズ」。日本代表を輩出し続ける常連チームに成長したい
「鬼ごっことドッジボールを足したような競技」「ボールのないラグビー」とも言われるインド発祥のスポーツ、カバディ。最近は漫画『灼熱カバディ(著者:武蔵野創氏)』が火付け役となり、カバディファンが増えてきているようだ。
東京の社会人カバディチーム「東京レイズ」は、下は高校生から上は40代まで幅広いメンバーが揃っている。出身校、経験の有無に関係なく間口を広げ、比較的参加しやすい体制をとっている。そんな東京レイズは、日本におけるカバディの歴史をつくってきた名門校以外からも強い選手を生み出し、カバディ界をさらに盛り上げたいと活動中だ。その一つの目標として「日本代表3名以上輩出」を掲げている。
カバディの魅力にはまりチームを結成
東京レイズの結成は2012年だが、前身の「ユナイテッドアールズ」は2007年に結成された。ユナイテッドアールズの立ち上げメンバーのひとり、相田秀久は現在でも東京レイズに在籍し、10年以上の長きに渡りカバディの普及とチームの実力強化に力を入れている。
相田がカバディに出会った当時、カバディがどんな競技かも知らなかったが、ラグビー経験のある相田は、タックルや蹴り技を使って攻防するプレーを見て、「自分もやってみたい」とすぐに思ったそうだ。とは言うものの、大学の部活動やそのOB会以外で、新参者が練習できるチームも見当たらず、「一般社団法人 日本カバディ協会」に問い合わせてみたところ、運良く日本代表が練習する隣で練習させてもらえることに。なんともラッキーな滑り出しである。
その成果もあってか、2007年「春季カバディ選手権大会」では第3位に輝き、2009年「秋季カバディ選手権大会」準優勝、2011年「春季カバディ選手権大会」準優勝など、数々の実績を残している。現在の東京レイズになってからは、2012、2013年「全日本カバディ選手権大会」で第3位を獲得。この時期は、日本代表経験者、相田自身を含め代表候補選手が複数在籍していた。その後、メンバーが大きく入れ替わり、現在は若手中心のチームとなっている。
東京レイズの現キャプテン(2018年11月)は、相田よりも以前から大学でカバディを始めた松田壮平。松田がカバディに出会った頃はさらに情報が少なかったため、文献などを参考に仲間と手探り状態で練習をしていた。そして、試合を初めて観たときに「どんな競技かやっと理解できた」というから驚くのだが、それでもカバディの可能性と魅力に最初から魅せられていたようだ。
最大の魅力は「自分で考えた戦術が即実践できること」。だから、病みつきに
日本は2017年にルールを変更している。海外のプロカバディにおいて、勝っているチームの時間稼ぎを防ぎ、膠着した試合に展開を持たせるためのルール「Do or Die Raid(やるかやられるかの攻撃)」が、近年、国際大会でも使われるようになり、日本も導入したのだ。「Do or Die Raid」とは、「得点しない攻撃が3回続くと、3回目に攻撃に行った選手は強制的にアウトとなり、相手の得点になる」というものだ。
それにより、個々の選手が攻守両方できないとさらに勝ちにくくなり、「よりオールマイティさが求められるようになった」と松田は分析している。守備は団体戦、攻撃は個人戦であるカバディの面白さともいえるが、そのハードルの高さが選手にとって醍醐味なのかもしれない。また、最後まで試合が動き続けるので、観ている側も最後まで試合展開を楽しんで観戦することができる。
学生時代はラグビー選手で大学では全国ベスト8になった、ホープの金村成晃はカバディの魅力についてこう語る。
「youtubeなどでベストタックル動画集を観ていたら、その中にカバディがあり興味を持ちました。そしてたどり着いたのが、相田さんが更新している東京レイズのブログでした。ラグビー経験があるので、実は『簡単にできるだろう』と思ったんですが、やってみてそれが思い上がりだと直ぐに分かりました。体の使い方がラグビーとは全然違うし、守備は個人だけではできない。攻撃は相手陣地に深く入りすぎると失敗の可能性が高くなるし、かといって行かないと点を取れない。瞬間の判断が問われ、得点に直結する。それが魅力ですね」
また、今まで熱中するスポーツがあまりなかったと言う口野透は、「僕は、カバディ女子日本代表選手の方と知り合う機会があり、その方から実際の体験を薦められて、やってみたいと思いました。カバディの攻守では1プレーのたびに攻撃は『やるかやられるか』という圧倒的なスリルがあります。それがなんとも言えません。それから、自分の考えた攻撃プレーがそのまま実現でき、かつ、それが試合の結果に直結する得点にも失点にもなるところが面白い」と朗らかに笑いながら話す。
チームメイトの言葉に頷きながら、キャプテンの松田が口を開く。「せっかく相手チームの選手にタッチできたと思ったら、相手にタックルされ、ギリギリのところで生還できなかったりする。また、動きを読んでそれをかわしたり。そういうスリルと相手チームとの駆け引きがあるのが魅力なんですが、くやしさもカバディの魅力だと僕は思っています。『次はこうしよう』と自分のプレーに対する意欲が試合中もどんどん湧くんですよ」
知名度が低く確保しにくい練習場。課題をクリアしながら国内4強以上を目標に
チーム人数も着実に増えて活気づいている東京レイズだが、実は練習場の確保がなかなかできないのが悩みのタネだ。東京都内の体育館に申し込みに行くと、知名度の低さから「危険なスポーツ」と勘違いされたり、「前例がない」という理由で断られることが多々あるそうだ。貸してくれる体育館を募集中だが、練習場の確保はカバディチームが抱える共通の課題でもある。
環境の整備はもちろんだが、「それ以外にも課題がある」と相田は主張する。
「誰しも他に仕事や学業があり、その中で練習しています。だから、『練習していない時の過ごし方』も大切だと僕は考えています。例えば、東京レイズに在籍している日本代表の菊地拓也選手や、モチベーションの高い選手が日々何をして、何に気をつけ、何を考えているかを聞いてそれを吸収したり。そうして、みんなで実力を底上げしていくことが必要。それが東京レイズの一つの課題だと見ています」
目指す目標に向かって、チーム全員の意識を揃えることは何よりも大事なことだろう。そこがバラバラだと、お互いの実力を掛け合わせて相乗効果を生み出すことは難しい。
目下の目標を松田に聞いてみた。「チームとしては、全日本カバディ選手権大会で4強以上ですね。それと、今後もチームから日本代表を輩出すること。2022年の中国・杭州でのアジア大会では3名以上を日本代表に送り込みたい」
日頃から「日本代表選手になる」と公言する金村も、「僕も代表選手を目指しており、フィジカルでは日本のどの選手にも負けないよう、日々鍛錬に励んでいます」と意気込みを語る。
「カバディはハードなスポーツですが、一度やってみると面白さが分かります。それがまだまだ伝わってないのが惜しい。興味を抱いてくれたら、ぜひ東京レイズの練習に来てほしいですね。カバディの魅力にハマる人が増えると思います」と松田は言う。
気がついたらカバディにのめり込んでいた松田と相田、この古参の選手を筆頭に、東京レイズはこれからもチームの発展とカバディの普及に力を入れていくのだろう。
文=佐藤美の