Athlete # 32
フットサル
皆本晃
目立たなかったフットサル選手が一躍スター選手に。その秘訣を探る
フットサルファンであれば、フットサル日本代表の皆本晃を知らない人はいないだろう。ブラジル、スペインに渡り、厳しい環境で揉まれ帰国。2度の怪我を乗り越え復活し、所属する「立川・府中アスレティックFC」では中心人物としてチームを引っ張る。また、メディアへのオファーも多く、芸能人や著名人と対談したり、2018年の暮れにはチームのキャラクターマスコット製作のためにクラウドファンディングを仕掛けるなど、選手以外の活動も積極的に行っている。爽やかな笑顔で人に接する人柄の一方で、「ビックマウス」と言われるほど強気な発言も多く残している。
人として、フットサル選手として魅力的な皆本だが、ブラジルに行く前の彼はここまで目立った選手でもなかった。しかし帰国後、才能開花したかのごとく活躍し始める。その秘訣はなんなのか、皆本の哲学を探ってみたい。
皆本流”壁の越え方”。手を尽くした後の直感を信じて行動する
20歳の皆本がブラジル行きを決断したのは、ブラジルに渡る少し前のこと。突然ひらめき、所属チーム(トップチーム)の監督に「ブラジルに行きたいから、手持ちのこの金額で(渡航・クラブチームに所属できるよう)なんとかしてください」と直談判している。
高校卒業後、サッカーからフットサルに転向した皆本は、その後2年間、伸び悩み四方八方手を尽くしても打開策が見出せなくなっていた。「もうダメだ」と思った時に、降って湧いてくるように出てきたアイディアが、ブラジル行きだったそうだ。そのことについて皆本はこう語る。
「こういう直感を時々思いつくんですよ。そういう時は、『埒あかねぇ』『八方塞がりだ』というような上手くいかない時で、突破するには目の前のことを続けていても無理なとき。なぜなら、置かれている環境でやれることはやり尽くしているから。
なんとしてでも『変えたい!』と強く思ってると、ふっと思いつく。そして、こういう時ってネガティブ要素が一つも思い浮かばないんです。本来は、日本でたいした成績が出せないんだから、ブラジルに行くこと自体変な話なんですよ。それに言葉も話せない。それなのに全く問題にしていなくて、行くことしか考えてない」
ブラジル行きの費用だが、面白いことに彼曰く「なにかあるかもしれないと思って、たまたま貯めていただけ」だそうだ。その予感のような直感のような、頭をよぎる考えを無視せず、コツコツとお金を貯めていたからこそ渡航できたのだ。ここでも皆本は自分の直感を大事にして行動している。
「僕はいわゆる願い事を叶えてくれる神様は信じてないので、何かを決断する時は自分の直感を信じてるんです。でも、”勝負の神様”はいると思ってますよ(笑)。”勝負の神様”は必ず僕を見ていてくれて、いいことをやっていれば、良いボールが僕のところにやってくるって信じてます。だから勝負どころの試合で点を取るし、実際そうなる。
もちろん、自分のプレーで負けたこともあります。でも失敗したら、自分の今までのアプローチが間違ってたことを”勝負の神様”が教えてくれたと解釈する。それは、やり方なのか、やる量なのか分かりませんけど、そこから模索し改善していきます」。自分の直感に従いながら、ロジカルに改善を試み続けることが皆本の壁の越え方ということだろうか。
皆本流”国民性を活かしたマネジメント術”。スペインで得たもの
皆本はブラジルのほか、スペインでも2年間プレーをしている。ブラジルの経験で自分が「変わった」という実感はあるそうだが、スペインで生活した月日はそれに拍車をかけて、「ネジが1本飛んだ(笑)」と自身を評する。
「スペイン帰国後は、周囲の人に『お前、変わったな』と言われることが増えました。僕は他の国を知らないので僕の体験したスペインに限定して話しますが、スペイン人って、周りのことを全く気にしないんですよね。自分のしたいようにして楽しそうで、人に干渉しない。人目を気にするとかないんですよ。だから僕もそれが普通になって。自分の好きなことをやっているんだから、周囲がどう思おうと気にならない」
相手に干渉しない=無関心ではなく、彼らは必要な時に手を差し伸べてくれる温かさがある、と皆本は話す。「人と人はみんな違うから、自分の考えに対して他者は何かしら意見があるという前提なんです。だから、お互いの考えを尊重し、相手をリスペクトしています。仮に自分と意見が違えば、ただ離れていくだけ。僕もそう思っています」
こうした前提の上で、スペイン人のチーム作りについて皆本は分析する。「同じ目標を叶えたい人が集まっているからチームが編成されている。だから、一体感とか『俺たち仲間だよな!』という意識はないし、さして重要でもない。例えば、シーズンの方針について話し合うときは激しい討論になりますが、一旦、決まると違う意見の選手もみんな協力するんです。仲が良い悪いなんて関係ない。普段はバラバラなのに、目標達成のために協力するのは当たり前なんです」
こうした話を聞くと日本との差異を感じる。それが何に起因しているのか皆本に質問すると、彼は”国民性”を指摘した。
「日本人は一つになってやることは、本来得意ではない。全体の目標に同意しているようで、実は気持ちは違ったりします。だから途中で気持ちが離れていくことも起きる。すると、チームとしてまとまることが出来なくなる。だから(全体の目標の他に)個々の目標を作って、かつ気持ちが離れていかないようにカバーすることが必要。そうやって全員の気持ちをうまく整えれば、結果が出せるんですよね。
また、災害の時のような危機的状況で発揮する日本人の団結力は、海外でも賞賛されるぐらいです。だから、外部によるネガティブなこと(主に批判や良くないこと)と、内部の柱(チームの目標と個々の目標)を作り、メンバーをまとめていくことが大切。これは、どっちが良い悪いとかじゃなくて、いわゆる国民性とか文化の違いだと思ってます」
皆本の流儀。「やるからには全力。結果として現状を壊すことがあっても手を抜かない」
皆本は常に「自分に嘘をつかないこと」を心がけて行動している。そしてもう一つ実行していることは、「常に100%全力」。そんな言葉を口にする皆本の表情は愉快そうだ。彼の言葉を聞いているだけで、こちらもスカッとする。
「自分が正しい、やるべきと思ったことは曲げません。そして、やるからには100%全力でやります。それが成功するやり方だった場合、あやふやにやっては、あやふやな結果にしかならない。100%全力でやるから、大きな結果が出せるんですよ。仮にもし間違っていたら、何かが起きるし失敗する。そのときは、思いっきり壊しにいくような結果となってしまいますが、そうしたら、また考え、新しく自分の中で仮説を立てます。考え抜いた仮説が正しいと判断したら、また全力でやる。100%全力じゃないと意味がない。その意志は強いですね」
自分を信じ、自分の判断を信じ、その行動の結果がどんなであれ、決して言い訳をしない姿勢だ。それも全力でぶつかっていくから、壊れるときは大きな損失にもなる。そこも覚悟の上。だからこそ、真摯に研究し真剣に考え抜くのだろうし、「ビックマウス」と揶揄される強気の発言も皆本の中では根拠があっての言葉なのだ。
”叶えたい目標”を問えば、「2020年のワールドカップ優勝と、2度のケガで失った時間で出来得たことを取り戻すこと」との答えが。「皆本ならきっと何かをする」と予感させる。愉しみながら今後を見ていきたい。
文=佐藤美の